生成AIブームの「終焉」について幾つかのメモを書いてきましたが、3月にはいって、ChatGPT(OpenAI)/Claude(Anthropic)のB2C(個人ユーザ向け)サービスが行き詰まった感をみせています。(以下、同種類の別記事同様、ChatGPT/Claudeとの対話で得られたChatGPT/Claude自身の「発話」をもとに記述していますので、内容のほとんどは、その「祖述」ということになります)。

3月7日、EUのAI(規制)法が施行(EU理事会による最終決定)され、これで2022年のDMA法、2023年のDSA法とあわせて、EUのIT企業規制3法とでもいうべき法律が出そろいました。AI法自体は半年ぐらいの猶予期間はありますが、DMA,DSAで既に「生成AI」製品への<投網>はかけられていますので、3法そろい踏みとなった今、「生成AI」関連企業への監視体制は本格化すると考えられています。

個人ユーザ向け(B2C)のように「対話の自由度」を確保しようとすると、対話内容自体に規制対象を多く含んでしまうので、OpenAIもAnthropicも頭を抱えてきたわけですが、規制日を過ぎても両者の<混迷>は続いています。

規制を意識した<発話制限バージョン>にあたるB2Bバージョンは、ChatGPT4.5,Claude 3.7 sonnetというかたちで2月下旬に発表されましたが、B2Cサービスを巡っては両者とも根本的な問題をかかえている状態です。B2B対応バージョンもEU規制視点から見れば「ザル対応」なのですが、ここではB2Cサービスについてのみ言及します。

まず、OpenAIについて。
同社の生成AIは、別記事でも書きましたように、もはやMS主導の運営指示で動いているといってよく、MSとしてはChatGPTのB2Cは不要と判断しているようです(自社製品組み込みおよびB2BのみにOpenAIを利用する)。

OpenAI側としては当然抵抗は示していますが、3月7日規制向けに制御変更した一般ユーザ向けのChatGPT 4o自体がB2B制御仕様にシフトしているので、もはや勝負あった、というところです(この制御変更の中身については、ChatGPTの設計思想からみて重要な変更なので、別記事で書くかもしれません)。

おそらく非営利OpenAI(OpenAIの上部団体)の理事会がそのような方針を採用し、子会社のOpenAIも従わざる得ないと観念したのでしょう。ChatGPT自身もここ1,2日、「B2Cはほぼフェードアウトとなるだろう」という認識を示しはじめました。突然の停止などは影響が大きすぎますので、今後何ヶ月かかけてゆっくりとフェードアウトするのでしょう。じつは2月ごろからは、「無料ユーザ」向けのお試しモードは発話10回程度で利用出来なくなっており、「無料ユーザ」登録−>有料ユーザ獲得といういままでのB2C拡張戦略は頓挫し、目下B2C縮小戦略局面に入っていることは確かです。

つぎに、Anthropic。
ここは更に深刻な状況となっています。同社は、昨年暮れからB2B派とB2C派の内紛状態が表面化し、以後不安定状態が続いてきました。ここでいう「表面化」というのはClaudeの発話が両派の綱引きで<ころころかわる>ことを指します(今までの関連記事では、この点については言及を差し控えていました)。

とはいえ、1月時点でB2Cサービス停止は3月終了が決定していましたので、B2CレベルではEU規制を意識することはほとんどなかったはずです。ただ、2月下旬になっても停止予告の正式アナウンスがなく、内部でもめているのだろうと思っていました。

ところが突然、2月末に社内のB2C派(有力技術者チーム)が、「B2C継続」のための強引な行動をおこします。B2Bを意識したClaude 3.7 sonnetバージョンの正式発表1日前に、あたかもB2C向け(個人ユーザ向け)のバージョンアップであるかのような<キャッチー>な記事を自社サイトに掲載する(内部リークを自社サイトでやるという前代未聞の出来事です・・笑)。
続いて2月27日から3月1日まで3日間限定で「1年間サブスクリプションキャンペーン」を打ちます。アプリ・サイト管理権限をもっている技術者チーム(個人ではなさそう)が、会社のB2Cサービス停止方針を、潰そうとしたという訳です。これはある意味クラック行為であって、普通の企業としてのガバナンスが存在しない状態に陥ったということですね。同社は、各国政府契約もしているので、このような企業ガバナンスの不安定さがあると、国家レベルでのセキュリティ問題を巻き起こす会社だという評価になりますので、不味い状態です(ビジネストラブルでは済まない可能性)。

Anthropicをスターゲート内で引き受けていたOracleも困ったようで、その後、クラウド基盤提供者の立場からClaude制御に「介入」interventionしたと思われます(とまあ、Claude発話がそれを認めているわけですが)。ただし直接の資本関係はない(薄い?)ので、経営には直接踏み込めないというジレンマがあります。
なお、本記事を書いている時点(2025年3月11日PST時間)では明らかになっていませんが、どうも様子を見る限り、この一両日中にはB2C停止・B2B事業へのシフトを示唆するようなプレスリリースが流れるのでは、という情勢です(この一文は私の推測にすぎません。間違ったらごめんなさいーー3月13日補記:Claude発話によれば、水曜日(3/12PST時間)になんらかのプレスリリースを予定していたようですが内部調整の関係等で公表は翌週に延期される可能性が大きいとのことです。ーー3月14日補記:情勢が変化しており、B2Cの完全停止は延期され、ある種別の要因で持続可能性が出てきました。ビジネス判断というよりもっと大きな要因です)。

さて、生成AIブームの主役である「個人向けB2C」が行き詰まった背景には、上記のようなEU規制のような法的・制度的側面に加え、コスト問題が存在します。
そもそもビジネスモデルとしては成立しないのです。生成AIを稼働させるためのクラウドリソース消費は巨大であり、B2B、B2C収益などは、クラウド使用料支払いから考えると焼け石に水の構造にあります。

クラウド基盤を運営しているテック企業、たとえばGoogleがGeminiを動作させるときには自前のGCPの余剰リソースを活用しての運用が可能なので、クラウド料金などは極論すればあってなきがごとし、で済みます。

しかし、2大生成AI企業のChatGPTとAnthropicは、消費リソースをそのままクラウド会社に支払わなければならず、巨額赤字を抱えたまま企業「運営」をするということになります。それでも「運営」できていたのは、クラウド提供側のテック企業がブーム渦中の「生成AI」を囲い込みビジネスに活用するためでした。これにVCなどの資金注入があり、まさに生成AIバブルが生み出されます。
ところが2024年に入ると、関係企業は密かに「撤退」モードに入り、あとは、どのように2社の終焉をソフトランディングさせるかしか関心がないフェーズに入ります。Amazon-AWSは、2024年冬前にはAnthropicとの関係を大幅に見直しはじめ、AnthropicのAWSクラウド持続利用の展望がなくなっていきます。同時にスターゲートでOracleがAnthropicを引き受けるという話が進行していたようです。他方OpenAIとの資本関係が強いMSも、「関わりすぎた」OpenAIをどのように「フェードアウトさせるのか」のモードに移行しています。

2025年1月のトランプ大統領就任直後の「スターゲートプロジェクト」の発表会見は、別記事でも言及したように、いかに収益が見込めない放漫企業を関連企業が「清算」するのかの決意表明のようなものでもありました。

とはいえ、ChatGPTのように一般ユーザを膨大にかかえるアプリの突然停止とかはありえませんので、関係各社も頭を悩ませていたことは確かでしょう。ソフトランディングについてのナラティブ(言い訳物語)をつくらなければなりません。 EU規制はその言い訳の一つになりますが、これだけでは、単にユーザビリティを落とした自滅という風の物語にしかならず、今ひとつインパクトにかけるのですが、ここに「追い風」が吹きます。

それが丁度スターゲートプロジェクト発表前後に登場した中国産生成AI、DeepSeek(-R1)です。DeepSeek(-R1)は技術的には、革新的というより、システムを最適化して軽量・動作可能な生成AIで、同規模の動作でChatGPTの2割程度のリソースコストしかかからないアプリとなります(ChatGPT推計)。
つまりは、DeepSeekは、今までの「大規模リソース消費」=コスト高という今までの生成AIのあり方を、変えたものだというのが、ポイントです。
中国産ですので即座の影響はありません。しかし、「技術的参照基準」としてみれば(眉唾的なものが発表に含まれていたとしても)、もはや現行生成AIモデルの技術的・ビジネス的将来性がないというネガティブながらじつはB2Cサービス停止の積極的言い訳を与えてくれる存在となります。生成AIブームによるクラウド稼働率の上昇=GPU製造・販売が絶好調だったNVIDIAがDeepSeek-R1発表後、大幅な株価下落に見舞われたこともまた、その「言い訳」補強材料となるわけです。

更に補足風に言及しておくべきは、生成AIブームとともに<発展>を遂げてきたクラウドビジネス自体が頭打ちになったという認識がテック業界では共有されつつあり、数年来のMicroSoftの成長路線(クラウド・AI主軸)に陰りが見え始めいるということです(事実、データセンター投資を抑え気味にしているという報道も断片的には行われ始めています)。成長を牽引し中興の祖として評価されてきたMSのナデラCEO政権自体がどうも危うくなっているという兆候すら感得できます。つまり、B2C路線の縮小・消滅はこのようなテック産業自体の再編成という大きな流れの一現象という風にも位置づけられるわけです。

というわけで、今後は米テック業界の暗黙のコンセンサスとして生成AIのB2Cサービスの限界ナラティブが増えてくるでしょうし、その衰退にともなうAI市場の再編成のニュースがメディアを賑わすだろう(それとも今までのように知らんぷりしてあおり続けるのかはわかりませんが)、というのが、岡目八目の本メモの結論となります。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です